作詞解説短期連載 第五回 SHE IS SUMMER「待ち合わせは君のいる神泉で」
SHE IS SUMMER「待ち合わせは君のいる神泉で」
作詞:ヤマモトショウ
作曲・編曲:ひろせひろせ
SHE IS SUMMERとの縁は深い。ふぇのたすとして僕と一緒にバンドをやっていたMICOのソロプロジェクトなのだから、それはまあ当たり前だろうという気もするが、デビュー曲である「とびきりのおしゃれして別れ話を」など、ところどころ一緒に作詞をしていたりこの数年の彼女のソロ活動をずっと見てきた。
ところで、この「待ち合わせは君のいる神泉で」という楽曲は、そのなかで生まれたSHE IS SUMMERらしさとは少し距離のある位置にいる曲なのではないか、と思っている。
この曲のテーマは「ちょうどぴったりでなくてもいい」ということだ。そのようなテーマにしたいと思った理由は、後述するとして
渋谷じゃちょっといきすぎだって
このフレーズをまずつくったと思う。
神泉という駅は、京王井の頭線で始発、あるいは終着駅である渋谷から一駅。つまり、あと一歩で渋谷なのだ。渋谷というのはご存知の通り、日本でも有数の大都会、そこを目指してやってくる人は毎日何万人どころではないだろう。神泉は、渋谷から十分歩いていけるし、もちろんこの辺りも人が溢れている。でも、だからこそだろうか、時々この一駅分をわざと歩いてみるのもいいかもしれないと思うことがある。
無駄なことをしてみるということは、実に音楽的だ。
ピントあわせすぎが求められていても
ぼけたフィルムに正解があったりするの
この曲のAメロでは、ちょっとずれたことわざのようなものたちが登場する。ことわざというのは「言い得て妙」なようで、実はあまりそれにぴったりあうようなシチュエーションはそれほど多くない。世の中そんなに単純ではないのだ。
犬も歩けば何に当たる?
わたしにあたればいいのになあ
果報は寝て待て、寝坊した
遅れた電車で運命の出会い
犬も食わない恋の話
ふたりで味見してみたいの
寝耳に水なことはありで
起きてても耳に水はいや
作曲をしたひろせ君から、メロディと一緒に「なんか言葉遊び的なものがほしい」という話を聞いたので、それなら「半分くらいあってることわざ」をいれてみよう、ということになったわけである。
MICOと当時、犬の話ばかりしていたので「犬」から歌詞を始めてみようとおもった。僕は犬も好きだし、猫も好きだ。歌詞には猫のほうがよく出てくると思う。文豪の横にいるのは猫だ。犬は歌詞に登場させにくいのかもしれない。「権力の犬」というような形でつかうことはできるかもしれないけれど。
歌詞をかくということは、その楽曲を固定することである。ある曲に、歌詞をかくことでその曲がひとつの完成された「曲」になる。それが行われるまで、メロディやコードは誰かの手元にありながらも、そのあたりをふらふらと浮いて、僕らが求めるところの楽曲にはまだなりきっていない。
たしかにメロディには、そこにぴったりあう言葉が存在するようにも思う。それをみつけるのが作詞家や作曲家の仕事である。しかしその「ぴったりさ」というのは、僕らがつくりはじめるまえに定まっているようなものではない。実はいままで形になっていなかった、あたらしい「ぴったり」は、いままでの基準からみたらびっくりするくらいにゆるゆるかもしれない。それは、自分らしくという単純さでは切り取れない挑戦でもある。
作詞解説短期連載は、今回で最終回です。
そして明日のお知らせにもご注目ください。
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