作詞の教科書(仮) 2.2.3 メロディを翻訳する
2.2.3 メロディを翻訳する
さて、2.2.2で行ったようにメロディを理解した上で行われる作詞の作業はいわばそのメロディの「翻訳」作業であるといえる。すでに正しいメロディはそこに存在しているが、それはそれだけでは楽曲としてはリスナー、あるいはアーティストに伝わることがない。そのメロディがもつべき意味を、歌詞として表現する必要が生まれてくる。
もちろん、どのようなテーマでかかれるべきかという点においては作詞家には大きな自由が与えられている。その意味ではこれは大いに創作的作業なのだが、しかしメロディという制約、あるいは先行するアイデアがあることによってそれらは単なる創作ではなく、そのメロディが本質的にもっている内容を表すものになっていなければならない。より具体的には、ワードチョイスにおいてはメロディによって決定されるある種の可否が存在するということである。たとえば愛を伝える内容の歌詞にする、と作詞者が決めたとしよう。サビの頭には「好きだ」といれたい、と考える。そのような「意味内容」を表現したい、と考えることまでは作詞者の創作の範疇であるといえるだろう。(もちろん、作曲者やシンガーにとってそれがあくまでもまったく想定されていないようなものでない限りにおいて、ということではあるが)。しかしたとえばこのサビの1音目は強く発音したい音だ、とメロディが指定した場合、日本語の「す」はそれには向いていない。それをあえてメロディとして生かすために別のワードで同じ意味内容を表すことができるものにするか、あるいは「す」ではなく何か音をいれた上で同じ言葉をつかうか(あるいは「す」を前にもってきて「き」からはじまるサビ、のようなこともできるかもしれないが)、そのように作詞の作業をすすめていく必要がある。
このような意味で曲先による作詞は、単に創作なのではなくメロディの翻訳的作業である側面をもっているといえる。