作詞解説短期連載 第三回 MINT mate box「メイクキュート」
MINT mate box「メイクキュート」
作詞・作曲・編曲:ヤマモトショウ
歌詞解説連載、三曲目はMINT mate boxの「メイクキュート」。MINT mate boxとの関わりは、僕がサウンドプロデューサということなのだが、プロデューサというのも実に色々な関わり方がある名称である。一言口だけ出してもプロデューサーだし、楽曲の作詞・作曲・アレンジや演奏などを行なっている場合もある。MINT mate boxの場合は、僕は考えうる限りのサウンドプロデューサ業のほとんどすべてをやっていたと思う。作詞・作曲・アレンジ、それから演奏はもちろん1枚目のインディー盤では原盤ディレクターもやったくらいだ。だから、どうしてもグループの楽曲そのもののコンセプトに立ち入らなくてはいけなくなる。
さて、前回も話したようにふぇのたすというバンド形式で「かわいい」を切り口にして、音源をつくることにすでに手応えは感じていたわけだが、ふぇのたす解散後は本格的に作家業、プロデューサー業をメインに活動をはじめた頃からその実感がむしろ自分に返ってくることになった。端的にいえば、割と何をつくっても「かわいい」という評価を受けるわけだ。これはもちろん自分の得意分野があるとか色があるとかそんな意味でいえばありがたい話であるし、僕自身もまったくネガティブな意味では捉えていなかった(いまもいないが)。しかし、当然クリエイティブというのはそういった定まった評価に対して、「何かしてみたくなってしまう」ものである。(僕はそうだ、ということでしかないのだけど)
MINT mate boxも同じように、インフルエンサーとしてある程度の知名度をもったメンバーが組んだバンドということで、バンドとしてはあくまでその一点で注目されるというスタートをきったことになる。その点についての葛藤は近くにいてよくわかるが、しかし別にそれ自体も何も否定するようなことではない。事実なのだから、その上で何をするかということでしかない。
自分も「かわいい」をつくることができるのだから、今度は「かわいいをつくる」ということ自体をテーマにして、かわいいをつくることができるのではないかと考えたわけだ。
「かわいいはつくれる」というキャッチコピーがあって、実に優れているとも思うのだが、しかしつくれるからこそ難しい、つくれるからこそその先にまだまだ追求すべきテーマがあるのではないかとまずは発想して、
「メイクキュート」というタイトルをつけた。
当然この楽曲のキーセンテンスはサビの一行目
「メイクキュートの迷宮で」
であろう。メロディとして聞けばわかる通り、「メイクキュート」と「迷宮」は韻が踏まれている(というかほとんど同じ発音をしている)。「かわいいはつくれる、だから迷う」というのがこの楽曲のテーマとして、まずこのフレーズをつくることから確定した。
曲づくりとしては、あとはそれほど難しくはない。待ち合わせの10分前から物語ははじまる。実際このあと1サビまでのワンコーラスは歌詞も含めて10分くらいで作った。
待ち合わせまではあと10分、
あとできる準備はなんだろう?
これはちょっと不思議に思うかもしれないが、実際には当然ふたりのストーリーはもっと前から始まっているのだ。つまりこの歌は、実は相手の視点からはじまっている。どれだけ悩んで迷ったとしても、相手に影響を与えたり、気づいてもらえるのは実は十分前からに過ぎないのではないか、ということである。
さて、この曲は構成も若干変則的なのだが、歌詞のハイライトは2Bだろうか。最初のデモの段階ではなかったので、唯一あとから付け加えた部分であったと思う。
あなたのためじゃないって、
いうのがもうあなたのためだから
ごまかさないのが一番
かわいいのかな?
これは、つまり上記で僕が考えていたことへのアンサーであるといえるだろう。ふぇのたすの頃には、こういったことに答えを歌詞中にひとつでもかくということは行わないようにしていた。それが、ポップスとしての当時やってみたかったことなのだが、おそらく作家として自分が表に立つことから一歩下がったことによってむしろその辺りの自由度が上がったのだろうと思う。なにより、このフレーズは実に「わかりやすかった」のではないだろうか。実際この部分が好きだ、という声をよく聞いた。僕も気に入っている。
これをきっかけにあたらしい「かわいい」をまたつくりはじめることが可能になったと共に「世界一かわいい曲をつくる」という自分で自分で説明するフレーズを使用できるようになったように思う。
第四回は
寺嶋由芙「ぜんぜん」
の予定です。