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作詞解説短期連載 第二回 ふぇのたす「かわいいだけじゃダメみたい」

ふぇのたす「かわいいだけじゃダメみたい」

作詞・作曲・編曲:ヤマモトショウ


 ふぇのたすのデビュー盤「2013ねん、なつ」に収録されている楽曲。当時、この楽曲はリード曲というわけではなかったが(僕自身はこの曲がリードでもいいのではないかと思っていた)、その後紆余曲折あって、解散した今ではYoutubeでの再生数や、コメント数がいまだに伸び続けている曲になっている。
 
 つくった当時のことを少し振りかえってみる。今回はあくまで作詞の解説なのだが、この曲は作詞・作曲・編曲ともに僕が行っていて、ふぇのたすの曲はほとんどがそのつくりになっている。(編曲に関しては、ときおり他のアレンジャーがはいることもあった)。実際、制作においても作詞と作曲、さらには編曲を同時に行っていた曲が多くこの楽曲も作詞と作曲はほぼ同時に行ったと思う。つくったのは2013年の1月。当時、ボーカルのみこがねんざだか何かでずいぶん暇をしている、という状況だった。じゃあちょっと新曲のデモでもつくろうかといって、夕方くらいにうちにくることになった。そこで朝からつくりはじめてできたのが、「かわいいだけじゃダメみたい」「おばけになっても」という曲である。今考えてもすごい制作のペースだ。

 この曲は、サビとイントロからつくった。最初、ぼくはCARSの”Tonight she comes”みたいな曲をつくろう、と思ったのだがサビができた時点で、それはもう半分くらい違うなという気持ちにはなっていたと思う。実際、まず

「世界一かわいい、でもそれじゃ世界かわらない」

というフレーズがこの曲のポイントだとは思う。まずここができたので、あとはここからストーリーを膨らませていくだけである。当時、ふぇのたすはまだデビュー前だったがすでに僕は「かわいい」という切り口で曲をつくることにすでにある程度の確信があった。こういう曲がうけるんだろう、と思ったと同時に、自分のその姿に対して自己批判的でいたいという現れがこの歌詞だったのだと思う。このフレーズに関しては、あとでもう一点ふれるべき重要な情報がある。

Bメロに

「2桁失点でノックアウト」
「2桁得点はオフサイド」

という野球やサッカーっぽいフレーズがある。
 これは当時、僕が「スポーツで例える」というのが「かわいくない」つまり、女性が好むかわいらしさの真逆をいくということのメタファーとしてつかったつもりだった。(しかし意外と男性はそういう話を好む、ということもあるかもしれない)
 Aメロの冒頭がすべて
「漢字カタカナ」
 というワードではじまるのもポイントで、これは当時僕らがライブをやっていた下北沢あたりでありがちだったこういった意味ありげで実はぜんぜんない曲名をつけるバンドへのアンチテーゼ的なオマージュだった。(僕もそういった「漢字カタカナ」みたいなタイトルをつけたことがあるので、なおさらだ)。ようは「かわいいだけじゃダメみたい」というのは、徹底的に自己批判なのである。

 そもそも「かわいいだけじゃダメみたい」と言っているのは、誰なのだろうか。作詞者としての神の視点だ、といってしまえばそれまでなのだが、たしかにこの曲ではタイトルであるこのフレーズは曲中のどこにも出てこないため、実際にはこのタイトルを言っているのが誰かのかという視点への回答は難しい。

 この曲を語るのに避けて通れないが、その視点に対してある種のアンサーを出そうとしてつくられたであろう映画『おんなのこきらい』(監督:加藤綾佳)である。『おんなのこきらい』は加藤監督によってふぇのたすの楽曲をもとにつくられた映画で、見ればわかるが特にそれはこの「かわいいだけじゃダメみたい」が下敷きになっている。実際この曲がいまでも根強い人気があることの理由として、この映画がおおくの、特に女性に人気があることもあるだろう(毎年講談社主催のミスiDというオーディションイベントの書類を見せてもらうのだが、好きな映画という項目にかなりの頻度でこの映画があげられていて、非常に驚く)

 映画から歌詞をつくったのではなく、歌詞から映画がつくられるというのはなかなか稀有な体験である。あえて、「かわいいだけじゃダメみたい」と実際に言ったであろう人物を曲中に登場させなかったことで、逆説的に『おんなのこきらい』という映画に、キリコ(役:森川葵)という人物がうまれたのではないか、と考えると実に興味深い。
 もしかしたら、今度は『おんなのこきらい』を観たことによってうまれた曲もあるのかもしれない。


 第三回は、MINT mate boxの「メイクキュート」を解説する予定です。

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