発掘あるいは育成

Frekulの新しいサービス
「スマートオーディション」をリリースという、ニュースが今日発表された。
オーディションとして端的に新しいサービスだと思うので、色々と思うところもあり考えをまとめてみた。

https://frekul.com/smart_audition/

これまで新人アーティストのオーディションというのは、各事務所やレコード会社が主宰するオーディションに個別にエントリーし、それぞれで結果がでればその事務所などと契約するというのが通例だった。もちろん、オーディション以外でもデビューの道はあるので、色々あるのだけれど例えばバンドをはじめてデビューを目指そうと思ったら、コネクションなどがない限り普通このオーディションをうけてみる、というのは一般的な方法のひとつだと思う。

ただ、事務所もレコード会社も大小かなりの数があって、それにすべてエントリーするのは結構大変だ。就活みたいなもので、数打ちゃ当たるわけじゃないけれど、ある程度数はうってみたくなるというのが普通だろう。

で、今回のサービスはその無駄をすべて省けるというわけだ。ここに登録すれば、新人を探している事務所やレコード会社の担当とマッチングしてくれる。それらはFrekulのスタッフとAIが用いられるようだ。

で、自分はオーディションからデビューしたわけではないのだけど、昔デビュー前にきいたとある方法を思い出した。
音楽業界にいる人なら結構みんな知っている「ミュージックマン」という雑誌がある。雑誌といっても一般書店には売ってない「音楽ビジネス年鑑」みたいなもので、商業スタジオとかにいけばだいたいおいてある。これに、実は各メジャーレコード会社のアーティストとその担当者名がかいてあるので、その人あてに直接デモテープを送るという方法があったらしい。
たしかにレコード会社がやっているオーディションよりも、自分の好きなアーティストの担当に直接きいてもらえるのだから、打率が高いような気がする。

しかし、もう一歩ひいて考えてみればその担当者が、そのメジャーアーティストのことを好きな新人を探している、求めているわけでは必ずしもないということもすぐわかる。だから、どの担当がどんなアーティストを求めているのか、ということは結構わからない。(じゃあそれをオーディション要項にかけばいいじゃないか、と思うかもしれないけれどおそらくそこに具体的なことをかいたら、おんなじような偏ったものばかりが集まってしまってあまり発見はないだろう)

そういう意味ではそのマッチングがある程度の意味でブラックボックス化されながらも、きちんとデータによって、しかも会社と個ではなくて、会社の中の個とアーティストの間でなされるであろうシステムは大いに求められているものだと思う。

このシステムは明らかに求められているものであって、要はいままで明らかに不毛な人的リソースをつぎこんでいた「発掘」(それは「発掘」する側もされる側も)という分野での間違いないコストダウンが可能になる。

ただ、実はこのコストダウンに音楽業界全体としてどういった意味があるのか、というのはまた少し別の問題だとも思われる。

実際、すでに新人発掘のコストというのがそれほどさかれているようには思えないし、かといって新人をレコード会社や事務所が見つけていないということもないように思えるからだ。むしろ、オーディションそのものよりも、レコード会社のほうが明らかに知名度が高いのだから(少なくとも音楽をやろうと思う人にとってはそうだろう)、まずリソースを増やすという意味でのコストパフォーマンスをあげるためにやっているわけではないのだろう。と、すると当然マッチングの確度をあげるというところだと思うのだが、これに関しては実際このサービス自体の内容ははじまってみないとわからないにせよ、最終的にはその判断に各担当が時間を割かなければいけないのは事実だろうと思う。まあもちろん、それくらいは織り込み済みだろうし、当たり前なのだけれど。

それよりも、この件を通じてひとつ実際に新人開発に関わる問題について
「発掘」
のコストをさげることそのものが実際さほど重要なのだろうか、というところが気になった。

あくまで実感としてのレベルだが、
新人をみつけることに困っている人というのは、たしかにいて僕自身もよく相談されることはある。ただ、そこには意外とノウハウがあったり、情報はまわってくるもので、実際に問題になるのは誰がはやいかというだけの話なのだ。むしろ今までそこでプライオリティが生まれていたところが、これからはなくなるということであればまあそれは(少なくともアーティストにとっては)結構なことのようにも思うのだけど、今やあまりその差すら感じない。というか、賢明なアーティストならそのくらいで判断はしない。

どちらかというと、どの事務所やレーベルも新人の
「育成」
に関するアイデア、ノウハウ、そしてコストに関して明確な基準などを持ち得なくなってきていることのほうが顕著な問題にみえる。

(こんなこといったら怒られるかもしれないけど、新人をみつけるのは、本当にみつけるだけならさほど難しくない。とくに前述のとおりで、名の通ったレーベルなら「音源を送ってくれ」といえば結構な数は集まるだろうし、ものになるならないはだいたいすぐわかる。)

問題は見つけた先、そのアーティストがそれこそデビューまでいくのか、そしてその後もあるのかというところだ。実際ここに関しては、現実的にマネー的な体力もなければ、人員的な体力もない、というようなところが多い。簡単にいってしまえば「即戦力」が求められている。
ただ、マッチングという意味で言えば、「即戦力」の方はあきらかに自分でシステムをつくってやってしまったほうがいいわけで、100歩譲ってある程度のものになったときにそれをシステムごと売り抜けてしまえばいいわけだ。買いたい人いっぱいいるだろうし。

僕は、今その発掘と、そして育成に関しても具体的なアーティストと関わりながらいくつか重要なサンプルもえつつ、あらたなシステムをある程度自分以外にも共有できるものとして構築しようとはしている。

実際3年前から、個人レベルのオーディションをおこなって、発掘育成をして、ほとんどのアーティストがデビュー、事務所所属、デビュー準備中等々という感じにはなっている。実際、みつけるときはほぼ自分自身の直感なのだけど、育成に関しては自分以外の関わってくれる方、面白いとおもって協力してくれる方の力なしにはほぼ成り立たない。

実はFrekulの「スマートオーディション」をみて、一番肝になりそうだなと思ったのがここで、レーベルや事務所以外にも協力者が探せるシステムになっている感じがする。僕もここでそれこそ投資対象(言い方わるいけど、こうとしか今はいえないので)をみつけることができたら楽しいなーと思ったのがまず第一印象だった。

それともちろん、さっきも書いた通り、僕自身も「発掘」そしてそれ以上に「育成」もやっているので、もし僕とマッチングしそうだなと思うアーティストの方がいたら気軽に僕のところにも連絡してきてください。

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